■面接の手応えが勘違いのケースも
野球経験者の就職・転職をサポートする事業は3年目に入り、求職者からの問い合わせが増えています。転職者希望者を対象にスタートし、現在は新卒の登録も多くなっています。
野球経験者に希望職種を尋ねると、大半が「営業」と答えます。高校や大学時代の野球部の先輩は営業職の割合が高く、「挨拶と礼儀は野球を通じて学んだので、何となく営業ならできそう」という感覚を持っているのだと思います。私も東邦ガスで野球部に所属していた頃は営業でした。
たしかに、元気の良い挨拶や礼儀正しさは営業職に求められる要素です。ただ、商品やサービスを売る営業には、その他にも求められる適性があります。自分では営業に向いていると感じていても、企業側は真逆の判断をするケースが少なくありません。
弊社では登録している求職者が面接を受けた後、合否の結果だけではなく、フィードバックも受けています。求職者は面接後に手応えを得ていたにもかかわらず、企業側からコミュニケーション能力の不足を指摘されることも多いです。求職者が面接は上手くいったと感じるのは、企業側が話しやすいように合わせてくれているわけです。
■雑談やメールにも表れる営業職の適性
自己分析と企業の評価が一致しているとは限らないため、まずは面接で生じたギャップを求職者に伝えるところからサポートをスタートします。現実を正確に把握しないと、効果的な対策を講じられません。面接に自信があった求職者が企業側のフィードバックを受け入れられるタイミングを見計らって内容を伝え、現状の課題を整理して一緒に改善していきます。
人材事業は現在、執行役員の小林満平を中心に進めています。私は最初の面談を担当するケースが多いです。あまり堅苦しくない、雑談の延長のような雰囲気で今までのキャリアや就職先の希望などを聞いていきます。この時の会話のやり取りからも、営業職の適性をチェックします。
例えば、「私の質問に対して的確な答えが返ってくる」、「相手の話を遮らない」など、営業に向いているかどうかは雑談でも分かります。営業は「話す仕事」と捉えられがちですが、相手の話に耳を傾けて求められていることを正確に理解し、会話のキャッチボールができるタイプの方が企業から求められます。おしゃべりが好きで、自分の話ばかりする人は営業向きとは言えません。
雑談や面談のほかに、LINEやメールも判断材料になります。私とのやり取りは営業先のお客さまとは異なりますが、「文章の最後に句点を付けているか」、「質問に対して簡潔に回答できているか」、「相手を気遣う一言が添えられているか」など、一通のメールでも些細な違いで受け取る側の印象は大きく変わります。中には、「はい」と一言で返信を終わらせる求職者もいます。
■企業のフィードバック+弊社の助言
弊社では、特定の企業の入社試験を受けてもらうような強制はしません。求職者に合っていると判断した複数の企業を選択肢として示しますが、どの企業を受けるかは求職者次第です。提案する企業は求職者の適性だけではなく、年収や家族との時間といった仕事の軸など、様々な要素から導き出しています。仕事が合わないという理由で退職した人は、今のところ1人もいません。
仮に求職者が希望する営業職に適性がないと感じても、まずは、営業を募集している企業を受けてもらいます。私たちが最初から否定することはありません。求職者自身が面接の経験から感じることがありますし、求職者が面接で得た感触、企業のフィードバック、弊社の意見やアドバイスと3つ視点があった方が、求職者がより納得する企業に入社できます。営業の中でも既存客を中心としたルート営業の方が向いているとアドバイスしたり、野球で培った分析力や課題解決能力を生かしてマーケティングに携わる仕事を勧めたりする時もあります。
希望の職種に就くために必要な意識や知識を伝えることも大切ですが、むしろ求職者本人が気付いていない適性を発揮する企業や、より活躍できる可能性が高い職種を提案することが私たちの役割だと思っています。学生時代、野球に打ち込んできた人たちは世の中にどんな業種があるのか、自分に合った業務は何なのかを分からないまま就職活動をしている印象です。
私たちが定めるゴールは「就職」ではありません。企業も求職者も幸せを感じる「マッチング」です。外野手から投手に転向したら輝いた選手がいるように、求職者が力を発揮できる企業を一緒に見つけています。入社後も話す機会を設けてアフターフォローを欠かさないのも、「就職が決まったら終わり」と考えていないためです。